研究室公開

OPEN LABORATORY

21世紀のエネルギーと知的システム制御
電気工学コース

01

安定で効率的な高品質電力の供給をめざして

電力を送り届ける高電圧設備の信頼性を支えるために

先端電力工学共同研究講座

EXHIBIT

オープンキャンパスでの展示

わが国の高い電力品質を支える電力流通設備の重要性と最新研究を紹介

 高度情報化が進む現代社会において,「電力」が1秒でも途絶えると,通信や産業のみならず,私たちの暮らしにも大きな影響を与えます。発電所で作られた電力を需要家に送り届ける送電線・配電線や変電機器などの設備を電力流通設備と言います。高電圧で運用されるこれらの設備について,経年に伴う劣化事象を解明し,電力の安定供給に必要となる先進的な診断技術・運用技術に取り組む研究を紹介します。

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地中送電ケーブルの経年特性評価と先進的な監視・診断技術の研究

 地中送電ケーブルは都市部の地下空間などに張り巡らされ,普段私たちが目にすることはありませんが,重要な役割を担っています。地中送電ケーブルの主力となっているCVケーブル(絶縁材料に架橋ポリエチレンを用いたケーブル)を対象に,経年劣化の主要因となる「水トリー」の発生機構を解明する研究を行っています。さらに,水トリーが伸展することで停電故障が起こることのないよう,劣化の予兆やその度合いを判定できる先進的な診断技術の開発を目指しています。
 水トリーはケーブル絶縁体の内部で発生・伸展するため,外部から見ることはできません。私たちは,水トリーの電界モデルを作成し,水トリーがケーブル絶縁体中で伸展した場合に,交流損失電流がどのように変化するかを解析することで絶縁診断に役立てる研究を行っています。さらに,水トリー先端部の電界の変化を解析することで,絶縁性能への影響を予測し,ケーブルの余寿命を評価することも目指しています。
 
右上図:CVケーブルの構造と絶縁体中の水トリーの例
右下図:電界モデルで解析した水トリー伸展時の交流損失電流波形と先端部の電界分布

ポリマーがいしの劣化事象解明と余寿命推定手法に関する研究

 従来の磁器がいしに代わり,「シリコーンゴム」を外被に用いたポリマーがいしは軽量でしなやかさがあり,また表面撥水性(水はじき)が良好で塩害汚損時の耐電圧も高いことから,送配電線用のがいしへの適用が進められています。しかし,無機材料である磁器と異なり,シリコーンゴムは高分子材料であり,屋外での運用寿命の見究めが難しいという課題があります。そこで,私たちは撥水性の低下要因に着目して,フィールドでの劣化事象の解明により,余寿命推定手法と長期寿命指針の提案を目指しています。
 私たちは,その最初のステップとして,シリコーンゴムの板状シートを試料として,塩水を滴下しながら課電して,表面撥水性の消失過程を解明する実験(ダイナミックドロップ試験)を行っています。
 
右上図:ポリマーがいしの外観
右下図:シリコーンゴムシートに対するダイナミックドロップ試験の様子

簡易センサを活用した電力設備の部分放電検出システムに関する研究

 これまで,電力流通設備の部分放電検出には,電磁波,超音波などのセンサや,絶縁油中に生成される化学生成物質を測定するものなど,各種手法が提案されています。しかし,感度を追求するとノイズの影響を受けたり,過酷な自然環境に対して脆弱であるなど,解決すべき課題がありました。
 近年の IoT 技術の進展により,安価・堅牢・簡易なセンサを分散して設置することで,電力流通設備の部分放電監視・劣化診断に活用できる期待があります。そこで,私たちは簡易センサとして,設備に外部から張り付けて使用できる TEV(Transient Earth Voltage)センサの基本特性と,実設備への適用可能性を評価する研究を行っています。
 
右図:部分放電から放射される電磁波を TEV センサが検出する状況を解析した例